株式会社カナメ
「カナメブランド」と呼ばれる独自のレザーを提供する株式会社カナメ。ハンドメイドで美しく染められた牛革は、使い込むほどに艶が増していきます。こだわり抜いた牛革のエイジングは、レザーマニアさえも虜にするほど魅力的。都内ではもはや最後の一件となった牛革の鞣し工場として、日本一の「植物タンニンなめし革」を目指すカナメ。レザーに対する熱い想いとこだわりについて伺いました。20代で受け取った大切なバトン
1970年に創業した「カナメ皮革」を前身に、牛革のタンニン鞣しを作り続けてきた株式会社カナメ。二代目の佐久間 勇さんは、大学を卒業後に会社の将来を考えてイギリスへ留学します。ノーサンプトン大学(University of Northampton)のルーツである「ネン・カレッジ(Nene College)」で皮革に関する実技と化学を学び、海外のマーケットを見据えて帰国しました。先代はベルト用の革しか扱っていなかったため、ゼロから業界について学ぼうと一度は就職を考えますが、同業ということもあり「考えが甘い」と一蹴されます。とある社長からは「やるなら日本一のヌメ屋にならなきゃ潰れるぞ!」とまでいわれ、困り果てていたところ浅草の老舗革問屋「久保柳商店」にお世話になることができました。 「久保柳商店さんは当時特にクローム革を多く扱う革問屋で、いままで見たことも触ったこともない革を扱わせてもらいました。役に立ちたいという思いで、雑用でも何でも一生懸命やりました。4年間ほど一生懸命勉強させてもらったおかげでいまがあると思っています。人の繋がりや自分のやるべきことなど、大切なものを受け継ぐ儀式のような時間でしたね」
タンニン鞣しは原皮と手間が命
生まれも育ちも墨田区の佐久間さんが幼い頃は、近所に鞣し工場などの皮革関連企業が50軒近くあったそうです。いまでは数軒ほどになり、牛革を植物タンニンで鞣す、いわゆる「ヌメ革」の工場は都内でカナメだけになってしまいました。カナメでは北海道のホルスタイン、それも去勢されたオスのものだけを扱っています。オスは出産などによる革の変化が少なく、去勢されていると気性も大人しいため喧嘩などで皮が傷むこともありません。良質な原皮を選んで姫路の鞣し業者に届け、一度タンニンで鞣したものを東京に運びます。自社の染色工場で再度鞣してから染色するのですが、すべての作業を職人が手仕事で行っているのが特徴です。
「ヨーロッパでも寒い地方の牛革を使いますが、雄牛は食肉用なのでとくに皮が綺麗なんです。とはいえ、良い革を作るには手間がかかります。鞣して、染めて、洗って、乾かして。季節によって乾き方も皺の寄り方も変わります。タンニン鞣しは革に含まれる水分の調整が難しく、しっかりと脱水をした後の乾燥の工程がとても大切です。乾きすぎると革がよれてしまいます。程良い水分量が革の風合いを良くします。エイジングで艶が出るといわれていますが、それは良い原皮の表情を活かすために手作業で染料を吹いているから。顔料を使ったり、機械でベタベタに吹き付けたら経年変化は楽しめないですよ。手で触って、目で見て、一枚一枚丁寧に仕上げる。それがカナメブランドの革づくりです」
やっぱり、良い革は良い
染色工場で黙々と手を動かす職人さんも魅力的です。「タイコ」という大きな樽のような機械に原皮と水、そして薬品を調合しながら加工しているのですが、気温や湿度によって微妙に仕上がりに違いが出るといいます。日々、細かくデータを取りながら経験を養い、感覚を研ぎ澄ませていく様子はまさに職人のなせる技。「タイコは生もの」という言葉に納得です。
森杉 敏晴さんは、もともとブーツなどを手掛ける靴職人。「皮革の根本的な部分に触れたいと考えてカナメに来ました。いまは自分でも欲しいと思えるような革を作れて幸せです」と話す森杉さん。良い革ができあがると、思わず自分でも何か作りたくなるそうです。
20年近く働いているベテランの浅見 基宏さんは、革ジャンから小物までレザーアイテムが大好きでこの仕事に就いたといいます。「あるブーツブランドの革を染めているのですが、履いている人を見かけると自分の子供を見ているような気分になります」と、嬉しそうに話します。
イタリアに思いを馳せて
メイドインジャパンの高品質なレザーを作ることに誇りを持っている佐久間さんですが、海外に目を向けると憧れるのがイタリア。「良い革を堂々と作れる環境」だと話します。その理由について詳しく聞いてみました。
「ヌメ屋にとっての良い革っていうのは、薄化粧で呼吸をするような革なんです。素材の良さをじっくりと、時間をかけて楽しむことができる革がタンニン鞣しの魅力。そういう革はいつまでもユーザー様に大切にしてもらえると思って作っています。同じ発想で革を作っているのがイタリアなんです。当然、手間暇を惜しまず原皮にこだわっているわけだから高い。でも、メーカーやブランドのスタッフが革の使い方をよく知っているんです。だから用途に合わせてパーツごとにきちんと仕事をして納めることができる。でも、日本ではどうしても半裁という大きいサイズを扱う文化なので、良い部分とそうでない部分を同じ用途で扱わざるを得ない。どちらにとっても負担ですよね。革の表情にしても、日本は何でもお化粧で隠そうとしてしまうけど、イタリアやヨーロッパでは革の個性として活かしている。だから良い革がいい製品になっていますよね。カナメも負けない自信はあるけど、あの環境はうらやましいと思いますね」
それでも日本一を目指して
それでも佐久間さん前を向いて、「日本の皮革業界も協力し合って、一枚岩になればもっと良くなる」と話します。その目線は国内にとどまらず、アジアや世界に向けられているようです。
「日本のものづくりは世界に誇れるレベルです。私だって他社の革を見て『良い革を作るな』と思うことがたくさんあります。丁寧な仕事や繊細な感性は、世界に出て行ってこそ評価される部分もあると思います。メーカーだっていいブランドがたくさんあるわけですから、みんながそれぞれの意見を出し合って、魅力を100%出し切れる環境を作れたら良いですよね。その上で品質や技術を競う。自分の美意識や審美眼を堂々と世に問える。革屋としてはそんな正論を10年後にも言っていられるように頑張っていきたいと思います。そのためにも、まずは誰もが認める『日本一のヌメ屋』にならなきゃいけないですね。お客さんに選んでもらって、喜んでもらえるのが一番嬉しいことですから」
TEEMAでは、そんなカナメブランドのこだわりが詰まった「kaname Leather」を販売しております。ぜひ、日本一を目指す革の魅力に触れてみてください。